< 目次 >
(1)国際輸送と国際輸送業者
(2)海上輸送について
(3)航空輸送について


(1)国際輸送と国際輸送業者


 ”国際輸送”という言葉は結構耳にすることがあると思いますが、実は正式な定義がありません。ゆえに、正式な定義を求めるならば、”国際”と”輸送”とに言葉を分けて確認する必要があります。まずは次を見てみましょう。

こくさい【国際】
 一つの国だけではなく、いくつかの国にかかわっていること。多く他の語の上に付けて用いる。 〔漢訳「万国公法」(1864年)の「各国交際」から造語された。当初は英語 diplomatic intercourse の訳語とした〕

ゆそう【輸送】
( 名 ) スル
乗り物で人や物をはこぶこと。 「兵員を-する」 「海上-」 → 運輸(補説欄)
(出典:三省堂 ”大辞林 第三版”)

ということで、”国際”とは”一つの国だけではなくいくつかの国にかかわっていること”、”輸送”とは”乗り物で人や物をはこぶこと”という意味で、それぞれを合わせると”一つの国だけではなくいくつかの国に関わり乗り物で物を運ぶこと”という意味になりますね。

実際、国際輸送が用いられるのは、貿易取引においてある国の売手から別の国の買手に売買された物品を引き渡す手段として用いられますので、”国際輸送”とは”貿易取引において売手から買手に物品を引き渡す手段”とも言うことができるでしょう。そして、具体的な輸送手段として、船舶や航空機、陸続きの国同士では貨物列車やトラック等が用いられます。イメージ図にすると、次のようになります。

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では、貿易取引における売手が自ら国際輸送を行うのかというと、そうではありませんよね。貿易取引における売手が国際輸送業者へ国際輸送を依頼して、国際輸送業者が国際輸送行います。ちなみに、その国際輸送業者とはどんな業者か言うと、例えば、”○○通運”や”△△エクスプレス”、”□□カーゴ”等の名前の業者で想像がつきますよね。

しかしながら、実は一見、おかしな点があります。気付いていたでしょうか? それらの国際輸送業者は、実は、国際輸送に不可欠な船舶や航空機を所有していません。驚きましたか? 変ですよね。でも、実はそうなんです。それらの国際輸送業者は国際輸送に不可欠な船舶や航空機を所有していません。

じゃあ、国際輸送業者はどうやって国際輸送を行うのでしょうか? 実は、船舶や航空機を所有せず、お金を払ってそれらを利用し国際輸送を行っています。そのようにお金を払って船舶や航空機を利用して国際輸送を行うことは世界共通のビジネスでもあり、そのようにビジネスとして船舶や航空機を利用して国際輸送を行う国際輸送業者のことを、日本の法律では”利用運送事業者”と言い、英語では”Freight Forwarder(フレイトフォワーダー)”と言ます。ちなみに、日本で利用運送事業を行うには、国土交通省より利用運送事業を行う許可を取得する必要があります。イメージ図にすると、次のようになります。

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国際輸送については、先に”貿易取引における売手が国際輸送業者へ国際輸送を依頼して、国際輸送業者が国際輸送行います。”と紹介しましたが、実際には、貿易取引における売手が荷送人(におくりにん)としてその国の国際輸送業者との間で国際輸送契約を結ぶことで国際輸送が行われます。簡単な手順としては、次のようになります。

  1. 荷送人が国際輸送業者へ国際輸送を依頼する
  2. 国際輸送業者が荷送人より国際輸送を受託する
  3. 荷送人と国際輸送業者との間で国際輸送契約が結ばれる

そして、荷送人が国際輸送業者へ依頼した内容が、荷送人と国際輸送業者との間で結ばれた国際輸送契約の内容になります。また、その内容は”荷送人から荷受人(にうけにん)までの間をどのようにして国際輸送するか”という内容です。更に、その契約内容を書面にしたものが国際輸送契約書である、海上輸送では”船荷証券(英語名:Bill of Lading)”や”海上貨物運送状(英語名:Sea Waybill)”、また、航空輸送では”航空貨物運送状(英語名:Air Waybill)”となります。イメージ図にすると、次のようになります。

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ゆえに、国際輸送は、”Bill of Lading”や”Sea Waybill”、”Air Waybill”等の国際輸送契約書の内容の通りに行われます。言い換えると、”Bill of Lading”や”Sea Waybill”、”Air Waybill”等の国際輸送契約書に書かれていない国際輸送はなされない、ということになります。


(2)海上輸送について

 ここでは、海上輸送について紹介したいと思いますが、まずは、国際輸送のいくつかの輸送形態を紹介します。

主な輸送形態
 輸送形態には、次のものがあります。
① 海上輸送 ② 航空輸送 ③ 鉄道輸送 ④ 道路輸送 ⑤ 国際複合一貫輸送
これらのうち、わが国の貿易取引の主な輸送形態である、海上輸送、航空輸送そして、国際複合一貫輸送についてみていきます。
(出典:MHJ出版 ”最新貿易実務ベーシックマニュアル”)

私達の住む日本は島国なので、私達が”国際輸送”と聞くと”①海上輸送”や”②航空輸送”を思い浮かべますが、陸で繋がっている国々では、”③鉄道輸送”や”④道路輸送(トラック輸送)”という選択肢もあります。尚、”⑤国際複合一貫輸送”というのは、先の①~④をいくつか合わせて一貫した輸送とするものをいいます。

ということで、ここでは、私達が”国際輸送”と聞いて思い浮かべやすいもののうちの”①海上輸送”について紹介したいと思います。まずは、次の説明を見てみましょう。

海上輸送
 運賃は比較的安価ですが、通常、航空輸送に比べて輸送時間がかかります。ただし、最近では韓国や台湾等の近隣諸国向けに、ジェット船等の高速船が出ており、輸送時間が短縮されてきています。
 以前は貨物を手作業で船舶に積み込む形態でしたが、1950年代より貨物をコンテナに詰めて輸送するコンテナ船が登場し、圧倒的に増えています。一方以前の輸送形態は在来船と呼ばれ、わずかに利用されるだけになっています。
 コンテナを利用した輸送は、コンテナごと倉庫まで輸送できるので作業効率もよく、コンテナの普及にしたがってコンテナ積み卸し専用のガントリークレーンを設置する港も増えました。
 コンテナの規格はISO(国際標準化機構)やJIS(日本工業規格)により決められていますが、海上輸送で使用するコンテナは20フィート(20FT) と40フィート(40FT)の2つのサイズが主流となっています。この20フィー卜、40フィートはそれぞれコンテナの長さ(奥行)を示します。また、コンテナの幅(間口)は8フィート、高さは8フィー卜または8.6フィートが標準です。近年では長さ45フィートのコンテナや、高さ9.6フィートの背高海上コンテナ(ハイキューブ・コンテナ)も利用されています。
 次の図にあるように、貨物海上輸送に使用される標準的なコンテナのことをドライ・コンテナといいますが、冷凍や加温したまま輸送できるリーファー・コンテナや、液体・気体の輸送に適したタンク・コンテナ等、貨物の種類に適したさまざまなコンテナも登場しました。

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(出典:MHJ出版 ”最新貿易実務ベーシックマニュアル”)

海上輸送の特徴をまとめてみると、次のようになりますね。
  • 運賃は比較的安価だが航空輸送に比べて輸送時間がかかる
  • 貨物を手作業で船舶に積み込む形態からコンテナに詰めて輸送するコンテナ船が登場
  • 海上輸送で使用するコンテナは20フィートと40フィートの2つのサイズが主流

また、海上輸送では、"港湾”や”コンテナターミナル”を経由して輸送されますが、それらについてはあまり馴染みがありませんよね。遠くから景色として見たことがある人は多いと思いますが、それらの中に入ってまじまじと見たことがある人は少ないと思います。なぜなら、誰でも自由に出入りできるところではないからです。ということで、ここでは絵を用いて紹介します。では、まずは”港湾”について。

港湾とは
 外国貿易を行う船舶が出入りできる港は「開港」と呼ばれ、法令によって指定されています。現在、日本には約120の開港が指定されており、貿易貨物の船積みや荷揚げが行われています。
 これらの港は、港務局や地方自治体によって管理・運営されています。

港湾の施設
 港湾は「水域(海上部分)」と「陸域(陸上部分)」で構成されています。
 水域には、船が通行する「航路」のほかに、到着した船が待機する「停泊地」や海上で積揚荷役を行う「係船ブイ」などの施設があります。
 陸域には岸壁、クレーンなどの荷役機器や倉庫、港湾内の道路や線路、さらにコンテナターミナルなどがあり、これらを総称して「埠頭」と呼んでいます。
 港湾を管理する「港務局」や、貨物の輸出入を管理する「税関事務所」も港湾内にあります。

港湾の関係者
 港湾では、船の運航に関する事業者と、貨物の船積みに関する事業者が各業務を行っています。 船関係では「船舶代理店」「水先案内人」「タグボート業者」などがあり、貨物関係では「港湾運送事業者」「荷役事業者」「はしけ運送事業者」「検数事業者」「検量事業者」などがあります。

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(出典:かんき出版 ”はじめての人の貿易 入門塾”)

ということで、港湾の特徴をまとめてみると、次のようになりますね。
  • 港湾は”開港(外国貿易を行う船舶が出入りできる港)”と呼ばれ法令によって指定
  • 港湾は”水域(海上部分)”と”陸域(陸上部分)”で構成
  • 港湾では船の運航に関する事業者と貨物の船積みに関する事業者が各業務を行う

次に、”港湾”にある”コンテナターミナル”について。

コンテナターミナル
 コンテナターミナルとは、コンテナ船専用の埠頭のことで、「コンテナ荷役施設」と「コンテナ保管管理施設」が、一元的にコンピュータシステムで管理されている港湾施設です。
 コンテナターミナルは、通年24時間休みなく稼動し、コンテナ船がスケジュールどおりに入出港できる体制を支えています。

コンテナターミナルの施設
 コンテナ船が接岸する岸壁を「バース」と呼び、本船の手前で貨物積卸しの荷さばきを行う場所を「エプロン」と呼んでいます。
 エプロン上にはコンテナを船に貨物を積み卸しする専用クレーンである「ガントリークレーン」が設置されています。
 エプロンに隣接した場所は「マーシャリングヤード」と呼ばれ、これから船積みするコンテナや、荷揚げ後のコンテナが保管されます。
 エプロンとマーシャリングヤードを総称して、「コンテナヤード(CY)」と呼んでいます。
 コンテナヤードの入口にはゲートと管理棟が設けられており、出入りするコンテナの情報管理や実重量測定などを行っています。
 また、コンテナターミナルの近くには、「コンテナフレートステーション(CFS)」があります。

コンテナヤード
 コンテナヤードとは、輸出通関を終えた船積み前のコンテナの搬入と保管、船から荷卸しされたコンテナの保管、および輸入通関手続後のコンテナの搬出作業が行われる施設です。

コンテナフレートステーション
 コンテナフレートステーションとは、輸出の場合はコンテナ1本に満たない小口貨物を集めて1本のコンテナに詰め合わせる作業(バン二ング)を行い、輸入の場合は詰め合わせて輸送されてきたコンテナかつ小口貨物を取り出す作業(デバン二ング)を行う施設です。

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(出典:かんき出版 ”はじめての人の貿易 入門塾”)

ということで、コンテナターミナルの特徴をまとめてみると、次のようになりますね。
  • コンテナターミナルとはコンテナ船専用の埠頭のこと
  • コンテナを船に貨物を積み卸しする専用クレーンである”ガントリークレーン”が設置
  • ”コンテナヤード”とは、輸出通関を終えた船積み前のコンテナの搬入と保管、船から荷卸しされたコンテナの保管、および輸入通関手続後のコンテナの搬出作業が行われる施設
  • ”コンテナフレートステーション”とは、輸出の場合はコンテナ1本に満たない小口貨物を集めて1本のコンテナに詰め合わせる作業(バン二ング)を行い、輸入の場合は詰め合わせて輸送されてきたコンテナかつ小口貨物を取り出す作業(デバン二ング)を行う施設

以上のような施設を経由して、貨物が船舶に積み込まれ、海上輸送がなされます。


(3)航空輸送について

 それでは、”②航空輸送”について紹介したいと思います。まずは、次の説明を見てみましょう。

航空輸送
 運賃は海上輸送に比べて割高ですが、何といっても輸送時間が短いのが最大のメリットです。このため、生鮮食料品や生花、医療品、半導体等の輸送に利用されています。
 航空輸送は、直接航空会社と運送契約をする方法のほか、混載業者と呼ばれる専門業者が、複数の小口貨物をとりまとめて輸送契約をする方法もあり、この場合の運賃は直接航空会社と契約を行う場合に比べて割安となります。
(出典:MHJ出版 ”最新貿易実務ベーシックマニュアル”)

航空輸送の特徴
 航空輸送は、輸送時間の圧倒的な速さが利点です。そのため、貿易輸送の手段としての需要が年々増大しています。
 しかし、航空輸送は輸送費が海上輸送に比べて割高で、輸送できる貨物の大きさや重量も制限されています

航空輸送に適した貨物
 貿易取引では、次のような商品の輸送に航空輸送が利用されています。
 ・納期が切迫した商品 … 生産工場の大型機械の部品のように、至急運ばないと生産が停止して大損害を被る危険性のある商品
 ・輸送時間中に劣化する商品 … 生花や生鮮食料品のように、輸送中に品質が劣化する危険性のある商品
 ・高価値の商品 … 貴金属や精密機械のように、価格に占める運賃の割合が低い商品
 ・重量や容積が小さい商品 … 小型機械の部品やコンピュータチップのように、重量や容積が小さくて、運賃の影響を受けにくい商品
(出典:かんき出版 ”はじめての人の貿易 入門塾”)

ということで、航空輸送の特徴をまとめてみると、次のようになりますね。
  • 運賃は海上輸送に比べて割高だが輸送時間が短いのが最大のメリット
  • 輸送できる貨物の大きさや重量も制限されている
  • ”納期が切迫した商品”や”輸送時間中に劣化する商品”、”高価値の商品”、”重量や容積が小さい商品”に適している

また、航空輸送は"空港”を経由して輸送されますが、中でも”税関空港”を経由して輸送されます。また、航空輸送を行う貨物は、私たちが海外旅行へ行く時に使用する”旅客ターミナル”ではなく、”貨物ターミナル”で取り扱われます。しかし、この”貨物ターミナル”についてはあまり馴染みがありませんよね。なぜなら、誰でも自由に出入りできるところではないからです。ということで、ここでは図を用いて紹介してます。

税関空港とは
 外国貿易を行う航空機が出入りできる空港は「税関空港」と呼ばれ、港湾と同じく法令により指定されています。現在、日本には25の税関空港が指定されており、輸出入航空貨物の積み込みや荷揚げが行われています。

税関空港の施設
 空港の主要設備は、次のとおりです。
  ・航空機が離着陸する滑走路
  ・ターミナルへの誘導路
  ・エプロン(貨物の積み卸しや旅客の乗降を行うために航空機を停めるエリア)
  ・旅客ターミナル
  ・貨物ターミナル
  ・管制塔
  ・税関などの庁舎
 空港の周辺には、輸出入貨物を相包・保管する「航空会社」や「混載業者(利用運送事業者)」の倉庫があります。

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(出典:かんき出版 ”はじめての人の貿易 入門塾”)

ということで、”税関空港”の特徴をまとめてみると、次のようになりますね。
  • 外国貿易を行う航空機が出入りできる空港は”税関空港”と呼ばれ港湾と同じく法令により指定
  • 空港の主要設備は、”旅客ターミナル”や”貨物ターミナル”、”税関などの庁舎”など
以上のような施設を経由して、貨物が航空機に積み込まれ、航空輸送がなされます。


[ まとめ ]
  • 国際輸送とは、一つの国だけではなくいくつかの国に関わり乗り物で物を運ぶこと。また、貿易取引において売手から買手に物品を引き渡す手段。
    ビジネスとして船舶や航空機を利用して国際輸送を行う国際輸送業者のことを、日本の法律では”利用運送事業者”と言い、英語では”Freight Forwarder(フレイトフォワーダー)”と言う。
  • 海上輸送の特徴のまとめ
    ・運賃は比較的安価だが航空輸送に比べて輸送時間がかかる。
    ・貨物を手作業で船舶に積み込む形態からコンテナに詰めて輸送するコンテナ船が登場。
    ・海上輸送で使用するコンテナは20フィートと40フィートの2つのサイズが主流。
  • 航空輸送の特徴のまとめ
    運賃は海上輸送に比べて割高だが輸送時間が短いのが最大のメリット。
    輸送できる貨物の大きさや重量も制限されている。
    ”納期が切迫した商品”や”輸送時間中に劣化する商品”、”高価値の商品”、”重量や容積が小さい商品”に適している。


以上


※ 参考図書

”最新貿易実務ベーシックマニュアル”(MHJ出版)

最新貿易実務ベーシックマニュアル 改訂1版 貿易実務検定・C級オフィシャルテキスト

 

”はじめての人の貿易入門塾”(かんき出版)

はじめての人の貿易入門塾<改訂2版>