< 目次 >
(1)評価申告
(2)加算要素
(3)評価申告のいろいろ


(1)評価申告

 “評価申告”とは字の通り“ひょうかしんこく”と読みますが、はじめて聞く人には何がなんだか見当も付かない言葉だと思います。しかし、“申告”とあるので輸出入申告に関係することに気付いた人もいるかも知れませんが、それをふまえて“評価申告”の言葉を改めて見てみると“価値を見定めて輸出入申告する”という意味と読むことができるかと思います。このように説明すると、「あれ? 輸出申告価格は輸出時の価値で、輸入申告価格は輸入時の価値だから、“輸出入時の価値を見定めて輸出入申告する”ってことは、つまり、“評価申告”と言っても普通に輸出入申告することなんじゃないの?」と更に気付いた人もいるかも知れません。本質的な理解としてはそれで100点満点です。しかし、実際には、この“評価申告”というものは、なかなか一筋縄ではいかない手強いものでもあります。ということで、“評価申告”について、まずは税関による説明を見てみましょう。

評価申告制度 制度の概要 1.概要
 評価申告とは、納税申告に際し、申告書に添付される仕入書、運賃明細書等のみでは課税価格の計算の基礎が明らかでない場合に、当該課税価格の計算に必要な事項を申告するものです。評価申告は、通常、評価申告書を提出することにより行います。
(出典:税関ウェブサイト “評価申告制度”)

冒頭に“評価申告とは、納税申告に際し、”とあるので、評価申告は輸入(納税)申告に関係することが分かるかと思います。ついでに、ここで3-2.輸出入申告価格の“輸入申告価格”についておさらいしておきましょう。

法令の条文なのでやっぱり難しい言葉がありますが、平たく言うと、”輸入申告価格”は”輸入取引の現実支払価格に輸入港に到着するまでの運賃や保険料を加えた価格”ということです。ということで、輸入港に到着するまでの運賃や保険料も売手(輸出者)が負担するインコタームズを覚えていますか? いくつかありましたが、その中の一つの”CIF(運賃 ・保険料込条件)”の内容をおさらいしてみましょう。1-3.インコタームズでは、次のように紹介しました。
(中略)
ということで、”CIF(運賃・保険料込条件)”の売手(輸出者)負担費用である国内輸送費と輸出通関費用、海上(航空)輸送費、貨物保険料に”貨物そのものの価格”を加えた価格が”輸入申告価格”となります。また、別名で”CIF価格”と言われることもあります。イメージ図で示すと次のような感じです。上の図と見比べてみてみましょう。

輸入申告価格とは”輸入取引の現実支払価格に輸入港に到着するまでの運賃や保険料を加えた価格(CIF価格)”でしたよね。それを踏まえて、先程の税関による説明の下線部分を少し言い換えてみると、
  • “評価申告とは、輸入申告の際に、輸入取引の現実支払価格に輸入港に到着するまでの運賃や保険料を加えた価格(CIF価格)だけでは輸入申告価格を算出できない場合に、必要な価格を申告するもの”
と言い換えられるかと思います。こうするとなんとなく分かってきたかと思いますが、まだピンと来ない人もいるかと思いますので、いくつか具体例を挙げながら紹介していきましょう。

(ケース1)
 一般的な貿易取引では、買手が売手に物品を発注して、売手が受注した物品を製造する設備を用意して、その設備で物品を製造し、製造された物品を輸出して販売します。そして、製造された物品価格は、基本的には、設備費や技術費、材料費、人件費等から構成され、ここでは物品価格を100万円とします。すると、買手がその物品を輸入する際には、物品の輸入時点の価値として、物品そのものの価格100万円と輸入時までに掛かった諸費用を含めた価格を輸入申告価格として輸入申告をしますよね。以下がイメージ図となります。

case 1


(ケース2)
 ケース1の一般的な貿易取引とは少し変わり、買手が売手に同じ種類・数量の物品を発注して、その物品を製造する設備も全く同じ設備ですが、売手がその設備を用意するのではなく、買手が用意して無償(タダ)で売手に貸して、売手はその設備で物品を製造し、製造された物品を輸出して販売する場合があるとします。実はそういう場合が結構あるんですね。その場合、売手は自分で設備を用意していないので、設備費の分だけ製造コストが安くなり、製造された物品価格は100万円よりは安くなるはずですよね。それに応じて、ここでは物品価格を80万円とします。すると、買手がその物品を輸入する際には、物品の輸入時の価値として、物品そのものの価格80万円と輸入時までに掛かった諸費用を含めた価格を輸入申告価格として輸入申告をすることになりますよね。以下がイメージ図となります。

case 2


 それでは、ケース1とケース2を比べてよく考えてみてください。一般的に、全く同じ設備で製造された物品には、全く同じ価値がありますよね。しかし、上の2つのケースでは、全く同じ設備で製造された全く同じ物品なのに、ケース1では物品価格が100万円となり、ケース2では物品価格が80万円となり、全く同じ価値にはなっていないですよね。すると、ケース2の方が輸入に掛かる関税等が安くなっておトクですよね。しかし、物品価格が80万円の物品にも本来100万円の価値があるはずですよね。しかし、ケース2の貿易取引で物品価格を80万円として取り決めていたなら物品価格を80万円として輸入申告をするしかないですよね。しかし、そうすると本来の価値である100万円で輸入申告ができないですよね。「んー、じゃあどうすればいいの?!」ってなりますよね。

そこで評価申告が登場します。ケース2の場合は、買手がその物品を輸入する際に、物品の輸入時の価値として、物品そのものの価格80万円と輸入時までに掛かった諸費用に、買手が用意して無償(タダ)で売手に貸した設備の費用も加算して、その価格を輸入申告価格として輸入申告をすることになります。このようにして、物品の輸入時の価値を正しく見定めて輸入申告をすることを評価申告といいます。もう少し具体的にいうと、貿易取引の内容によっては輸入申告価格であるCIF価格とは別に加算する必要のある価値が生じている場合がありますので、CIF価格とは別に加算する必要のある価値を加算して輸入申告することを評価申告といいます。以下がイメージ図となります。

case 2 kai


(2)加算要素

 加算する必要のある価値、それを“加算要素”と言いますが、加算要素にはどんなものがあるのでしょうか?法令では次のように定められています。

加算要素
一 当該輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用(次条及び第四条の三第二項において「輸入港までの運賃等」という。)
二 当該輸入貨物に係る輸入取引に関し買手により負担される手数料又は費用のうち次に掲げるもの
  • イ 仲介料その他の手数料(買付けに関し当該買手を代理する者に対し、当該買付けに係る業務の対価として支払われるものを除く。)
  • ロ 当該輸入貨物の容器(当該輸入貨物の通常の容器と同一の種類及び価値を有するものに限る。)の費用
  • ハ 当該輸入貨物の包装に要する費用
三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により無償で又は値引きをして直接又は間接に提供された物品又は役務のうち次に掲げるものに要する費用
  • イ 当該輸入貨物に組み込まれている材料、部分品又はこれらに類するもの
  • ロ 当該輸入貨物の生産のために使用された工具、鋳型又はこれらに類するもの
  • ハ 当該輸入貨物の生産の過程で消費された物品
  • ニ 技術、設計その他当該輸入貨物の生産に関する役務で政令で定めるもの
四 当該輸入貨物に係る特許権、意匠権、商標権その他これらに類するもの(当該輸入貨物を本邦において複製する権利を除く。)で政令で定めるものの使用に伴う対価で、当該輸入貨物に係る取引の状況その他の事情からみて当該輸入貨物の輸入取引をするために買手により直接又は間接に支払われるもの
五 買手による当該輸入貨物の処分又は使用による収益で直接又は間接に売手に帰属するものとされているもの
(関税定率法 第4条)

と紹介されても、何がなんだか分からないと思いますので、これも具体的な例を挙げて紹介していきましょう。

一 当該輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用(次条及び第四条の三第二項において「輸入港までの運賃等」という。)
これは書いてある通りで、物品の輸入時点までの運送に関係する全ての諸費用のことです。

二 当該輸入貨物に係る輸入取引に関し買手により負担される手数料又は費用のうち次に掲げるもの
  • イ 仲介料その他の手数料(買付けに関し当該買手を代理する者に対し、当該買付けに係る業務の対価として支払われるものを除く。)
貿易取引における売手と買手との仲を取り持ち双方の条件を調整したりして、取引が成立するように仲介を行う業者へ支払う手数料で、買手が支払う手数料であれば、それが加算する必要のある価値になります。全く関係ない例ですが例えて言うなら、不動産屋さんに住居を斡旋してもらった時に支払う手数料のようなものです。

  • ロ 当該輸入貨物の容器(当該輸入貨物の通常の容器と同一の種類及び価値を有するものに限る。)の費用
  • ハ 当該輸入貨物の包装に要する費用

例えば、食品を輸入する貿易取引で、その食品を入れる袋は日本の規格に合う袋でないといけませんので、買手が無償でその袋を売手に提供していれば、その日本の規格に合う袋の費用が加算する必要のある価値になります。

三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により無償で又は値引きをして直接又は間接に提供された物品又は役務のうち次に掲げるものに要する費用
  • イ 当該輸入貨物に組み込まれている材料、部分品又はこれらに類するもの

(1)で紹介した例で言うと、物品を製造する設備ではなく、物品の材料を買手が無償で提供していたりすると、その材料費が加算する必要のある価値になります。また、材料としてよくあるのがラベルとか部品等です。

  • ロ 当該輸入貨物の生産のために使用された工具、鋳型又はこれらに類するもの

これが(1)で紹介した例の、物品を製造する設備費用のことです。あと、よくあるのが成型用金型の費用ですね。

  • ハ 当該輸入貨物の生産の過程で消費された物品

これも材料ですが、材料の中でも生産過程で消費されるようなもので、例えば、触媒等の原材料の費用のことでです。

  • ニ 技術、設計その他当該輸入貨物の生産に関する役務で政令で定めるもの

(1)で紹介した例でいえば、物品を製造する設備ではなく、物品を製造する技術を無償で提供していたりすると、その技術費が加算する必要のある価値になります。但し、その技術が海外で開発された技術であれば加算する必要のある価値になりますが、日本で開発された技術であれば加算する必要がありません。この点は結構理解し難い点です。

四 当該輸入貨物に係る特許権、意匠権、商標権その他これらに類するもの(当該輸入貨物を本邦において複製する権利を除く。)で政令で定めるものの使用に伴う対価で、当該輸入貨物に係る取引の状況その他の事情からみて当該輸入貨物の輸入取引をするために買手により直接又は間接に支払われるもの

いろんな権利のことが書いてありますが、分かりやすい例が、ディズニーグッズを輸入して販売する場合です。ディズニーというブランドの使用料を買手が支払っていれば、その使用料が加算する必要のある価値になります。

五 買手による当該輸入貨物の処分又は使用による収益で直接又は間接に売手に帰属するものとされているもの

あまり一般的でない貿易取引ですが、基本的に買手はインボイスの価格で支払いをすることになりますが、別途“インボイス価格の10%を支払う”というような契約をしていると、そのインボイス価格の10%の価格も加算する必要のある価値になります。

以上が、加算する必要のある価値、“加算要素”です。あと、実は忘れてはいけないのが、例えば、買手から売手に無償で材料や設備を提供する場合、買手から売手に輸出をしますよね。すると、輸出に掛かる通関費用や国際輸送費用が発生しますね。もし、それらの費用を買手が支払っていると、それらの費用も加算する必要のある価値になります。「って、どこまで足さないといけないの。。。(汗)」って思うかも知れませんが、本質的には物品の輸入時の正しい価値が適切な輸入申告価格となります。


(3)評価申告のいろいろ

 本質的な輸入申告価格と評価申告の考え方については分かって貰えたかと思いますが、評価申告はやはり難しくて、分かりにくい点も多いので、最後に、比較的よくある質問について紹介しておきましょう。

<Q1> ~ いつ評価申告すればいいの? ~
 (1)で紹介した例のケース2では、買手が売手に製造設備を無償で貸していますが、例えば、その設備費用を1,000万円として、その設備で製造された物品が5回に分けて輸入される時、5回の輸入申告を行うことになりますが、毎回の輸入申告で1,000万円を足して輸入申告しないといけないのでしょうか? つまり、設備費用は1,000万円なのに、結果的に5,000万円を加算して申告することになるのではないでしょうか?
<A1>
 設備費用が1,000万円であれば、1,000万円を加算して輸入申告すれば大丈夫です。聞きたいのは「どのように加算して輸入申告すればよいのか?」という点かと思います。実は2通りの加算方法があり、1つは5回の輸入のうちの初回の輸入申告の時だけに1,000万円を足して申告する方法と、もう一つは5回の輸入の5回の輸入申告の時に按分して例えば200万円ずつ足して申告し、結果的に1,000万円を足して申告したことにする方法と、その2通りがあります。すると、またよくある質問で「どっちが良んですか?」って聞かれることがありますが「貿易取引の内容に応じて都合の良い方法が適切な方法」という回答になります。しかし、何回に分けて輸入するか決まってなかったり、決まってても増減もあるかも知れませんので、初回に一括して加算する方法の方が加算し忘れがないかと思います。

<Q2> ~ 無償じゃなく売り物として販売していたら? ~
 (1)で紹介した例のケース2では、買手が売手に製造設備を無償で貸していますが、例えば、買手が売手に製造設備を無償ではなくて売り物として販売していたとしても、その設備で製造された物品を買手が輸入する時には設備費用の1,000万円を足さないといけないのでしょうか?
<A2>
 先に答えを言うと、足す必要はありません。理由は、買手が売手に製造設備を売り物として販売していると、売手がその設備費用を負担していることになり、売手がその設備で製造した物品の価格に、その設備費用を転嫁しているとみなされるためです。つまり、事実上、売手がその設備を自分で用意したことになりますよね。だから、話は少し逸れますが、評価申告を忘れないようにする方法の一つとして、通常の貿易取引においては買手から売手に無償で物品を提供することは控えるようにして、評価申告をする必要のある状況をできるだけ作らないようにする、ということが挙げられます。

<Q3> ~ 製造設備自体を日本に戻す時の関税等は二重課税? ~
 (1)で紹介した例のケース2では、買手が売手に製造設備を無償で貸していますが、その設備で製造された物品を買手が輸入する時には設備費用の1,000万円を足して輸入申告をするとして、その後、売手はその設備が要らなくなって買手に返す時には買手はその設備だけを輸入することになります。その時、買手がその設備だけの輸入申告をする時にはその設備費用の1,000万円にかかる関税等を納めることになりますが、すると同じものに対して二重に課税されていることになるのではないでしょうか?
<A3>
 先に答えを言うと、二重に課税されていることにはなりません。<Q3>前半では、設備費用の1,000万円を加算して輸入申告するのはその設備で製造された物品の価値として輸入申告をしていますよね。しかし、<Q3>後半では、設備そのものを輸入する時に設備の価値として1,000万円で輸入申告をしていますよね。ゆえに、そもそも輸入申告の対象が異なるため2重に課税されていることにはならないんですね。
 一方、<Q3>後半の輸入では売り物として輸入する訳ではないので、輸入申告で納めた輸入消費税は、買手が税務署に行う確定申告で還付を受けることができます。また、設備を輸入する時、その設備について買手が売手に無償で貸した時に輸出したものと同一のものでそれを証明することができると、再輸入免税という免税手続を適用することができます。すると、1,000万円に係る関税等を納めずに輸入することができます。


[ まとめ ]
  • “評価申告とは、輸入申告の際に、輸入取引の現実支払価格に輸入港に到着するまでの運賃や保険料を加えた価格(CIF価格)だけでは輸入申告価格を算出できない場合に、必要な価格を申告するもの”
    貿易取引の内容によっては輸入申告価格であるCIF価格とは別に加算する必要のある価値が生じている場合があるので、CIF価格とは別に加算する必要のある価値を加算して輸入申告することを評価申告という
  • 加算する必要のある価値、それを“加算要素”と言う
  • 2通りの加算方法があり、1つは5回の輸入のうちの初回の輸入申告の時だけに1,000万円を足して申告する方法と、もう一つは5回の輸入の5回の輸入申告の時に按分して例えば200万円ずつ足して申告し、結果的に1,000万円を足して申告したことにする方法
    買手が売手に製造設備を売り物として販売していると、売手がその設備費用を負担していることになり、売手がその設備で製造した物品の価格に、その設備費用を転嫁しているとみなされ、事実上、売手がその設備を自分で用意したことになる
    設備費用の1,000万円を加算して輸入申告するのはその設備で製造された物品の価値として輸入申告をしており、設備そのものを輸入する時には設備の価値として1,000万円で輸入申告をするため、そもそも輸入申告の対象が異なるため2重に課税されていることにはならない


以上