< 目次 >
(1)ハンドキャリーとは
(2)輸出 - 商業貨物の旅具通関
(3)輸入 - 商業貨物の旅具通関
 ※ よくある質問

(1)ハンドキャリーとは

 “ハンドキャリー”とは、英語では“Hand-Carry”と書いて“手で運ぶこと”を意味しますが、一般的にはどういう意味で使われているのでしょうか? まずは次を見てみましょう。

ハンドキャリー
 ハンドキャリー(handcarry)とは、文字通りでは、手に持って運ぶという意味ですが、卸においては、乗客が鉄道や航空機などの公共交通機関を使って、貨物を「旅客手荷物」として運ぶことを意味します。 たとえば、化粧品の輸入の場合において、バイヤー自らが少量の商品を持ち帰るために良く使われる手段です。
(出典:ジェイフロンティア)
ハンドキャリーを使う意味
 ハンドキャリーとは、海外へ物品を手荷物扱いで運んだり、あるいは逆に海外から手荷物扱いで旅客機で運んでくることを意味する用語です。英語でもhand-carryの言い方で意味は通じます。国内でも、新幹線等を使ったハンドキャリーを行うケースもあります。
(出典:ダイヤモンドホイール・ダイヤモンド砥石・CBN工具・CBN砥石と研削研磨の情報サイト)

ということで、正式な定義がある訳ではなくて、一般的によく使われている意味としては上の通りで、特にビジネスで使われる意味としては、海外出張等で業務上の理由をもって自社製品や部品、サンプル等を自分の手荷物として飛行機で運ぶことのような意味で使われていることが多いのが現状です。

その“ハンドキャリー”で物品を輸出入する場合、輸出入することに変わりはないので通関手続きが必要になります。では、どのように通関手続きをすればよいのでしょうか? その前に、これまで通関手続について色々紹介してきましたが、“通関手続き”と言っても実はいくつかの種類があります。つまり、通関手続は一つだけではありません。「えー! 何それ、どういうこと?」っていう声が聞こえてきそうですが、分かりやすく言うと、物品によって行う通関手続きが異なるということです。では、どんな種類の通関手続きがあるのか? 通関手続きには大きく分けて2種類あり、一つが“業務通関(ぎょうむつうかん)”と言われるもので、もう一つが“旅具通関(りょぐつうかん)”と言われるものです。それぞれどんな通関手続きか次を見てみましょう。

業務通関
 読み方:ぎょうむつうかん
 通関において、商業貨物に対して行われる通関手続き。許可書の申請などを必要とする。旅具通関に該当しない品目は業務通関の対象として扱われる。
(出典:実用日本語表現辞典)
旅具通関
 読み方:りょぐつうかん
 旅客または乗組員の携帯品、別送品等の通関についてはその輸出入形態の特殊性から簡便な手続が認められていて、一般貨物の「業務通関」に対し「旅具通関」と呼びます。
(出典:会計用語辞典 )

ということで、例えば、企業等の法人が自社で取り扱う製品を輸出したり、海外から調達したものを輸入したりする時に行う通関手続きが“業務通関”で、海外旅行や出張に行く時に携帯する物品に対して行ったり、海外から帰ってきた時に短冊のような黄色い紙を制服を着た人に渡して「特に申告するものはありませんね?」と聞かれて、よく分からないけど「はい……」と答えて通り抜けていく手続きを“旅具通関”というよ。「あー、そうだったのか?」と思う人もいるかも知れませんが、少しまとめてみると次のようになります。
  • 業務通関:商業貨物に対する通関手続き
  • 旅具通関:旅客または乗組員の携帯品、別送品等に対する簡便な通関手続き

ところで、それぞれの違いは分かったと思いますが、あまり聞きなれない“商業貨物”とは何でしょう? これもちゃんと確認しておきたいのですが、実は正式な定義がないので、まずは“商業”の意味を確認しておきましょう。

【商業】しょう‐ぎょう〔シヤウゲフ〕
 生産者と需要者の間に立って商品を売買し、利益を得ることを目的とする事業。具体的には卸売商・小売商のような商品売買業者の活動をさすが、このほかに運送業・倉庫業・金融業・保険業・広告宣伝業などを含めて広く考える立場もある。
(出典:デジタル大辞泉 )

ということで、“商業”とは商品を売買し利益を得ることを目的とする事業という意味で、“商業貨物”とは、一般的には、企業等が営利目的で取り扱う物品のことですね。ちなみに、営利目的だから“商業貨物”は有償(対価を支払う)のものだけに限らず、無償(対価を支払わない)のものも含まれるからね。それをふまえて、改めてまとめ直すと次のようになります。
  • 業務通関:商業貨物(企業等が営利目的で取り扱う物品・有無償不問)に対する通関手続き
  • 旅具通関:旅客または乗組員の携帯品、別送品等に対する簡便な通関手続き

 では、ここで少し思い出してみてください。“ハンドキャリー”とは、ビジネスで使われる意味では、海外出張等で業務上の理由をもって自社製品や部品、サンプル等を自分の手荷物として飛行機で運ぶことでしたよね。ということは、“海外出張等で業務上の理由をもって自社製品や部品、サンプル等”は“商業貨物”だから“業務通関”が必要になりますよね。すると「”商業貨物”なのに、なぜ“旅具通関”を行って“自分の手荷物として飛行機で運ぶこと”ができるのか?」という疑問が起きますよね。次のものは“旅具通関”ができる輸出貨物を示したものですが、まず見てみましょう。

(旅具通関扱いをする輸出貨物)
67―2―7 次に掲げる貨物については、後記 67―2―8(旅具通関扱いをする貨物の輸出申告)の定めるところにより、旅具通関扱いをするものとする。
(省略)
(省略)
船長、機長又は出国者に託して輸出される貨物(託送品)で輸出貿易管理令の規定による輸出の許可又は承認を要しないもののうち、次に掲げるもの
 イ 受取人の個人的使用に供されるもの又は総価額が 30 万円程度以下のもの(自動車、船舶及び航空機を除く。)
 ロ 受託者の属する船会社又は航空会社名が印刷されている便せん、封筒、積荷目録、船荷証券、船積書類等で他の目的又は
  用途に供されるおそれのないもの
 ハ 総価額 60 万円以下の無償の商品見本又は宣伝用物品(自動車、船舶及び航空機を除く。)
 ニ 外国公館が輸出する公用品又は外国の外交官等が輸出する自用品
 ホ 本邦の在外公館に送付される公用品
(4) (省略)
(出典:関税法基本通達)

上で下線を引いたところが、“商業貨物”ですが“旅具通関”ができるものです。まとめると次のようになります。

旅具通関ができる商業輸出貨物:
  • 託送品で輸出貿易管理令の規定による輸出の許可又は承認を要しないもので、
  • 総価額が 30 万円程度以下のもの、又は、
  • 総価額 60 万円以下の無償の商品見本又は宣伝用物品

そして、次は“旅具通関”ができる輸入貨物を示したものです。

入国旅行者の旅具通関範囲
 旅具通関は外国から入国する旅客等が携帯して輸入する貨物について、一定の範囲を決め簡易な通関手続を認めるもので、その範囲は次のとおりであり、これを超える場合は商業貨物と同様に一般通関扱いとなります。
輸入通関範囲(簡易な通関手続を認めるもの)
(1) 携帯品
 手荷物、衣類、書籍、化粧用品、身辺装飾品、その他本人の私用に供することを目的とし、且つ、必要と認められる貨物をいいます。
 なお、お土産等の貨物についても一定の範囲を決め簡易な通関手続を認めることとしており、その範囲は、原則、1品目につき3個までとし、3個を超える場合はその課税価格が30万円程度以下の貨物となります。なお、この範囲には、旅行先で送られた別送品も含まれます。
(2) 職業用具
 本人の職業の用に供することを目的とし、且つ、必要と認められる貨物をいいます。
(3) 引越荷物
 本人及びその家族が住居を設定し維持するために供することを目的とし、且つ、必要と認められる貨物をいいます。
(4) 託送品
 社用品等、本人の個人的な使用に供する貨物以外の貨物を携帯して輸入する場合であって、その範囲は数量にかかわらず、その課税価格が30万円程度以下の貨物となります。なお、旅行者の免税範囲の適用はありません。
(出典:税関ウェブサイト)

これも、上で下線を引いたところが、“商業貨物”ですが“旅具通関”ができるものです。まとめると次のようになります。

旅具通関ができる商業輸入貨物:
  • 社用品等、本人の個人的な使用に供する貨物以外の貨物を携帯して輸入する場合で、
  • 数量にかかわらず、課税価格が30万円程度以下の貨物

以上のことから、“海外出張等で業務上の理由をもって自社製品や部品、サンプル等”は“商業貨物”であっても、“業務通関”ではなく“旅具通関”を行って“自分の手荷物として飛行機で運ぶこと”ができます。では、どのようにしてそのような“旅具通関”を行ってハンドキャリーができるのでしょうか? 次から紹介していきます。


(2)輸出 - 商業貨物の旅具通関

 輸出する商業貨物の旅具通関について、まずは次のように定められていましたよね。

(旅具通関扱いをする貨物の輸出申告)
67―2―8 旅具通関扱いをする貨物の輸出申告については、次によるものとする。
(省略)
(省略)
託送品の場合又は携帯品若しくは別送品であつて旅客が輸出許可書の発給を要求する場合は、「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」2 通を提出することにより申告させ、輸出の許可を行つたときは、うち1 通にその旨を記載して申告者に交付する。
(省略)
(出典:関税法基本通達)

と言葉で紹介しても、だんだんこんがらがって来るだけだと思いますので、このあたりで旅具通関を行える商業貨物の範囲と手続きをフローチャートにしたものを紹介しましょう。

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“①インボイス”は、1-2.インボイスでも紹介していますが、“② 輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書”は次のものです。

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(出典:税関ウェブサイト “輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書“)

また、“③ 非該当証明書”については、経済産業省が以下のように紹介しています。

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(出典:経済産業省ウェブサイト 安全保障貿易管理 ”非該当証明書について”

ちなみに、その商業貨物を“預け手荷物”とする場合には、チェックインカウンターへ預ける前に税関事務所で手続きをすることになりますが、“機内持込み手荷物”とする場合は、保安検査後から出国審査までの間に税関事務所で手続きをすることになります。


(3)商業貨物の旅具通関 - 輸入

 次に、輸入する商業貨物の旅具通関については、まずは次のように定められています。

携帯品の税関への申告手続
 税関では、空港などの税関検査場において、海外から本邦に入国(帰国)される全ての皆様に、輸入が規制されている物品の有無、免税範囲を超える物品の有無等について、法令の規定に基づき確認をしています。このため、税関へ申告する事項について、あらかじめ「携帯品・別送品申告書」(税関様式C-5360)に記入し、税関検査の際に提出していただく必要があります。また、税関では、氏名等を確認する必要があることから、法令の規定に基づき、旅券又は航空券等の関係書類の提示を求めることがあります。
 ◆ 携帯品の申告(全ての方) 1通
 ◆ 別送品がある方(渡航先から荷物を送る方) 2通
 「携帯品・別送品申告書」は、機内や船内のほか、空港などの税関検査場に用意しております。また、税関ホームページの様式を印刷してご使用することもできます。入国時の申告にあたっては、税関手続を迅速に行うため、お土産品などはできるだけ一つにまとめていただくよう、ご協力願います。なお、商業貨物や高額な品物などを輸入する場合には、一般の貿易貨物と同様の輸入手続が必要となる場合があります。
(出典:関税ウェブサイト)

と言葉で紹介しても、だんだんこんがらがって来るだけだと思いますので、輸出と同じく、旅具通関を行える商業貨物の範囲と手続きをフローチャートにしたものを紹介しましょう。

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“①インボイス”と “② 輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書”は、輸出で紹介したものと同じものです。“③ 携帯品・別送品申告書”は次のものです。

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(出典:税関ウェブサイト “携帯品・別送品申告書”)

ちなみに、これらの手続きは、海外から帰ってきた時に短冊のような黄色い紙(それが“③ 携帯品・別送品申告書” )を制服を着た人に渡して「特に申告するものはありませんね?」と聞かれて、よく分からないけど「はい……」と答えて通り抜けていく手続きの際に行うことになります。


よくある質問

質問1) そもそも、商業貨物をハンドキャリーしても良いのですか?
回答1) 商業貨物をハンドキャリーすること自体は違法ではありませんが、商業貨物の内容に応じた通関手続きを行うことが必要です。尚、商業貨物をハンドキャリーする人が全ての手続を行う必要があり、更に海外における輸出入の手続も行う必要がありますので、ハンドキャリーは身近な輸送方法ですが、最も難しい輸出入の一つと言われています。

質問2) 海外出張で持ち出す業務使用のパソコンやスマートフォンは、商業貨物の旅具通関をしなければならないのですか?
回答2) 海外出張で持ち出す業務使用のパソコンやスマートフォンは“職業用具”にあたりますので、商業貨物の旅具通関ではなくて、口頭による職業用具の旅具通関を行えば大丈夫です。

質問3) 海外出張で持ち出す個人使用のパソコンやスマートフォンは、商業貨物の旅具通関をしなければならないのですか?
回答3) 海外出張で持ち出す個人使用のパソコンやスマートフォンは“携帯品”にあたるので、商業貨物の旅具通関ではなくて、口頭による携帯品の旅具通関を行えば大丈夫です。

質問4) 海外における輸出入の手続、つまり、日本から輸出した後の外国での輸入手続、又は、日本への輸入に向けた外国での輸出手続については、どうすればよいでしょうか?
回答4) 外国における輸出入の手続なので、基本的にはその国の法令に基づき適切に手続する必要があります。だから、その輸出入案件に関わる外国の取引相手や協力者と協力しながら手続を進めることになります。

質問5) フローチャートの最後に“以下①~③の書類を提出する商業貨物の旅具通関が可能”とありますが、それらの書類を提出することは法令義務ではないと聞いたことがあるのですが本当ですか?
回答5) まず、ハンドキャリーで商業貨物を輸出入する場合に旅具通関を行うのは法令義務です。それを踏まえた上で、輸入の“③ 携帯品・別送品申告書”の提出は法令義務ですが、それ以外の書類の提出は法令義務ではありません。しかし、業として輸出入を行う者(企業等)は、輸出入した貨物に関する品名、数量及び価格等を記載した帳簿を備え付け、その帳簿及び関係書類を保存することが法令義務としてあります。そのため、業として輸出入を行う者(企業等)は、ハンドキャリーで商業貨物を輸出入する際に、所定の書類を提出する商業貨物の旅具通関を行い税関より輸出入の許可を得たという客観的証拠を残すことが法令義務としてあります。ちょっとややこしいですね。

(補足)
 実は、旅具通関ができない商業貨物に対して、業務通関をしてハンドキャリーすることができます。「えー! じゃあ、ほとんど何でもハンドキャリーできるじゃん!」って驚く人もいるかも知れませんが、「ハンドキャリーでは業務通関ができない」とは一言も言ってませんよね(笑)。例えば、輸出であれば、輸出しようとする物品を通関業者に預けて、通関業者はその物品を税関の管轄する保税蔵置場へ搬入すると共に業務通関を行います。そして、税関より輸出の許可が下りれば、ハンドキャリーしようとする本人がその保税蔵置場へ行きその物品を引き取って、ようやく飛行機に載せることができます。つまり、分かりやすく言えば、通常通り出荷して、普通であればほぼ自動的に貨物として飛行機に積み込まれて輸出されて行くものを、貨物として飛行機に積み込まれる前に、自分で横から奪い取って自分の乗る飛行機で運んで行くようなもので、総じて手間とお金が掛かるだけで、比較的大幅な時間的メリットがないことが多いです。
 一方で、ハンドキャリーを専門に扱う業者も結構ありますので、そのようなハンドキャリー業者を利用することも一つの方法かも知れませんね。


[ まとめ ]
  • 海外出張等で業務上の理由をもって自社製品や部品、サンプル等を自分の手荷物として飛行機で運ぶことのような意味で使われていることが多い。
  • 商業貨物をハンドキャリーすること自体は違法ではありませんが、商業貨物の内容に応じた通関手続きを行うことが必要。
    海外出張で持ち出す業務使用のパソコンやスマートフォンは“職業用具”にあたりますので、商業貨物の旅具通関ではなくて、口頭による職業用具の旅具通関を行えば大丈夫。
    海外出張で持ち出す個人使用のパソコンやスマートフォンは“携帯品”にあたるので、商業貨物の旅具通関ではなくて、口頭による携帯品の旅具通関を行えば大丈夫。
    外国における輸出入の手続なので、基本的にはその国の法令に基づき適切に手続する必要があるため、その輸出入案件に関わる外国の取引相手や協力者と協力しながら手続を進める。
    業として輸出入を行う者(企業等)は、ハンドキャリーで商業貨物を輸出入する際に、所定の書類を提出する商業貨物の旅具通関を行い税関より輸出入の許可を得たという客観的証拠を残すことが法令義務としてある。
  • 旅具通関ができない商業貨物に対して、業務通関をしてハンドキャリーすることができるが、総じて手間とお金が掛かるだけで、比較的大幅な時間的メリットがないことが多い。
    ハンドキャリーを専門に扱う業者も結構ある。


以上